55型有機ELテレビのパネル

去年には発売されると言われていたサムスン電子とLG電子の55型有機ELテレビ。
しかし、2012年中の発表は何もなく年越ししましたが、LG電子が2月の発売を決めました。

更新:2013年05月25日(土)

LG電子ニュースリリース - LG BEGINS ROLLOUT OFEAGERLY ANTICIPATED OLED TV

今の所、韓国国内のみの販売で、価格は1100万ウォン(約90万円/約1万ドル)。型番は「55EM9700」になります。正確な発売日は不明ですが、2月中です。製造の問題などで延期になる可能性もあります。

この有機ELテレビは、去年のCES2012で公開され、2012年の秋には発売と言われていました。しかし、製造の問題から発売日は決まらず「年内には…」という状態になり、最終的には年内でも発売されませんでした。サムスンとLGどっちが先か、という状態でしたが、LG電子が先行したことになります。LG電子的には、サムスン電子より先に販売したかったみたいですので、おそらく赤字覚悟でしょう。

一部メディア(韓国のですが)がこのLG電子の有機ELテレビを“世界初”とか書いてますが、世界初はSonyの「XEL-1」です。55型なら世界初ですが。

ライバルであるサムスン電子が発表した有機ELテレビ(パネル製造はSamsung Display)とLG電子の有機ELテレビ(パネル製造はLG Display)との有機ELパネルの性能を比較します。

※この2社の有機ELテレビの有機ELパネルは、去年のSID2012で公開したパネルと同一のものと思われますので、以下同一であることにします。また、特に断りがない場合は技術的に有機ELパネルのことを指します。なので、液晶パネルの技術と混同しないようにしてください。

基本仕様

有機ELの簡単な技術的な話はこちら(当ブログ記事)の前半部分をご覧下さい。

両社とも55型クラス(対角139.7cm)です。LGの方は上記ニュースリリースによると54.6型(対角128.6cm)となっています。

重さは両社とも3.5kgです。これはパネル単体の重さになります。組み込まれると10kg程度となり、同サイズの液晶テレビの20kg-30kgと比べるとかなりの軽量です。サムスン電子の有機ELテレビは不明です。

厚みはLG Displayが1.7mm(最薄部分)、Samsung Displayが1.6mm(最薄部分)です。これはパネル単体の薄さになります。LG電子のは組み込まれると4mm程度になります。サムスン電子の有機ELテレビは不明です。

画素数は両社とも1920×1080(Full-HD)です。現在の一般的な画素数になります。画素とは、色を作り出すドットの集合体(ようするに色を再現できる最小数のこと)のことです。ピクセルとも言います。フルカラー有機ELパネルは、光の三原色と呼ばれるRGB(赤、緑、青)で色を作り出します。この色を作る画素数が多くなれば多くなるほど、表示できる情報量が増え、リアルな映像を表示できます。

Wikipedia - 光の三原色(加法混合)

Samsung Displayのパネルのドット構成はRGBですが、LG DisplayはRGBWになります。従来のRGBドット3色に加えて、W(白)の画素を混ぜています。これは消費電力低減のためです。

色域はLG DisplayのパネルはATSC比118%、Samsung DisplayはNTSC比で124%になります。

液晶パネルではsRGB、NTSC、AdobeRGBが良く使用されるので、ATSCはあまりなじみがないかもしれませんが、ATSCは現在のアメリカのハイビジョンテレビ放送の規格のことです。ATSCはNTSCの後継の規格ですが、色域はNTSCより狭いです。これは色域の狭さを頑張ってガバーしようとする表記に思えますが、現在ATSCは策定国のアメリカはもちろん他の国でも採用されている規格ですし、これを超える色は映像では扱わないので特に問題は無いと思います。NTSCは広大な色域を持っていますが、現在の出力機器(テレビ)のほとんどはNTSC比で70%程度です。別の規格であるITU-R BT.709では、120%とされています。このBT.709はブラウン管時代に策定された物で、これを基準に「IEC61966-2-1」が策定されました。この「IEC61966-2-1」はsRGBのことです。ですので、NTSC比124%という色域であるSamsung Displayのパネルに比べると狭い色域に感じてしまうかもしれません。

Wikipedia – ATSC

日本ではISDBという規格で運用され、国際的にはDVBという規格が多くを占めています。

Wikipedia - ISDB

Wikipedia - DVB

コントラスト比はLG Displayのパネルは10万:1以上、Samsung Displayは15万:1以上です。5万の差がありますが、これはLG Displayのパネルがカラーフィルターを用いてフルカラー化をしているためだと思われます。

LG電子の上記ニュースリリースではコントラスト比無限大となっていますが、間違いです。原理上では完全な黒を作り出すことは可能ですが、現状では上記の数値ぐらいです。

Panasonicが販売しているプラズマパネル(PDP)では、コントラスト比550万:1程度あります。 よく、液晶テレビで見られる「テレビコントラスト比」は、黒と白を別々に単色で表示した時の比であるので、あまり意味の無い数値です。上記の有機ELパネルとPDPは、ネイティブコントラスト比の数値で、これは1画面上で表現できるコントラスト比のことです。

応答時間は、LG Displayのパネルは、0.02ms以下、Samsung Displayは0.001ms以下です。かなりの高速ですが、有機ELパネルの表示方法はホールド型表示であるため、動きぼやけ(一般的には残像)が無くなることはありません。

これは液晶パネルでも同様です。液晶パネルは応答時間が短いほどぼやけが低減すると言われていますが、例え0msになってもなくなりません。詳しくは当ブログ記事をご覧下さい。

ですが、動きぼやけの対策は有機ELパネルの方が有利です。応答時間が表示する階調間で全て異なる液晶に対して、動きぼやけの低減対策がホールド型表示だけで済むためです。ほとんどの場合、黒画像を挿入する「擬似インパルス駆動」することが多いですが、LG電子とサムスン電子がどういう対応をしているかは不明です。

輝度はLG Displayのパネルは100cd/m2(全白)/400cd/m2(ピーク時)。Samsung Displayのパネルは輝度は150cd/m2(全白)/600cd/m2(ピーク時)です。

ピーク時とは、輝度を最大した時の数値ではなく、画面一部だけの輝度のことです。例えば、水面に映った太陽光が反射して光っている部分の輝度のことです。液晶パネルでは、全白とピーク時は同じのため、このように分けられることはありませんが、有機ELパネル(CRTやPDPも)ではこのように区別します。

気になるのは、輝度がLG Displayでは100cd/m2、Samsungでは150cd/m2しかないということです。暗い環境では十分なコントラスト比を出せると思いますが、少しでも外光が強いと外光に負け低コントラスト比になると思われます。通常の液晶テレビでは500cd/m2は表示することができます。通常の家で使用されている輝度は250cd/m2程度です。100lx(ルクス)の画面照度での好適輝度(主観で一番良いと思う明るさ)は年齢が低いほど輝度も低く、年齢が高いと高くなる傾向にあります。両社のパネル輝度では、あまり明るくない照明環境下ではそこまで問題無い値ですが、太陽光などの場合はこれに負けてしまいます。低い値であることは間違いないです。

また、この輝度が常用時なのか最大時なのかが気になるところです。Sonyが発売した世界初の有機ELテレビ「XEL-1」は、低い輝度を補うため画面を点けると除々に輝度が下がる輝度制御が行なわれていました。これは、画面を点けた直後は明るい画面で、その後除々に輝度下げることで画面が暗いことを視聴者に認識させにくくする方法で、初期のPDPでも用いられました。

有機EL素子には、寿命という欠点が付きまとい、「XEL-1」が発売されてから5年以上経ちますが(発売日は2007年12月)、現在でもそれは克服されていません。これを補うために輝度制御を行なっているわけですが、今回のこの2社でもこれが行なわれているのか興味深いところです。

詳細仕様

マニアック過ぎるので特に説明はしないです。

TFT

LG DisplayのパネルのTFTには、アモルファスIGZO(a-IGZO)が使用されています。画素構造は2T1C(1つのドットに2個のTFTと1個のキャパシタがあること)と基本的な構造です。TFT構造は、ボトムゲート型で、エッチストッパ層を設けています。LG Displayのパネル開発の遅れは、このTFT製造の問題と言われています。IGZOはTFT特性のばらつきが比較的少ないですが、これはちゃんと製造できた場合の話で、不完全な状態だと表示ムラが発生します。実際、SID2012で展示されたパネル(この手の発表会ではベストサンプルが展示される)には表示ムラがあり、LG DisplayとLG電子もそれを認めています。後に問題ない程度には改善されているとのことですが、やはり輝度ムラは避けられないと思われます。

Samsung DisplayのパネルのTFTには、LTPSが使用されています。画素構造は不明ですが、LTPSのため複数のTFTを使用する補償回路を組み込んで輝度ムラを低減する対策がしてある可能性があります。この補償回路を組み込むとTFTの数が増えるため、歩留まりの低下、開口率の低下により光利用率が落ちます。

Sonyの「XEL-1」は、2T1C方式です。このパネルの使用TFTは不明ですが、おそらくLTPSだと思われます。ですが、輝度ムラはかなり少ないため、高度なTFTの製造が行なわれていると思われます。また、2T1Cであることとトップエミッションであることから開口率は75%程度と高いです。

フルカラー化/蒸着方法

LG Displayのフルカラー化は白色有機EL素子+カラーフィルターで行なわれています。カラーフィルターは従来のRGBにWを追加した物で、LG Display、LG電子ではWRGBと呼称しています。白色有機EL素子+カラーフィルター方式は、Samsung Displayが製造する塗り分け方式に比べて大画面化、大型基板での製造が容易、歩留まりが確保し易いなど利点が多いですが、塗り分け方式に比べて消費電力が高くなる(カラーフィルターが光を吸収するため)、色純度が上げにくい(カラーフィルターに依存)などの欠点があります。

消費電力は、Wのドットを追加することで低減しています。それでも塗り分け方式に比べまだ高い模様ですが、測定方法(混色か白か)で変わったりするので一概にこちらが高いとはいえません。なお、このパネルの消費電力の数値は非公開です。テレビ発売に際してテレビ全体の消費電力が公開されるとは思っていましたが、現在でも非公開の状態です。同サイズの液晶テレビに比べて高い数値であると思われます。

蒸着方法は、スパッタリング法が使用されています。

Samsung Displayのフルカラー化はRGB塗り分け方式で行なわれています。この方式は、RGBを塗り分けることでカラーフィルターを無くし、高い色純度(広色域が可能)、高いコントラスト比が可能、消費電力がカラーフィルター方式に比べ低いという利点がありますが、大画面の製造が難しい、焼き付きが起こりやすいという欠点があります。

蒸着方法は公開されていませんが、FMM(Fine Metal Mask)を改良したSMS(Small Mask Scanning)が使用されている模様です。FMMに比べて使用するマスクが小さくなった物です。しかし、マスクによる塗り分け方式は大画面化が難しいです。これは、このマスクが垂れ下がるためです。高い製造精度が求められる有機ELパネル(液晶もPDPも)では、コンマミリ単位のズレも許されません。これがSamsung Displayが遅れている理由とは言えませんが、一因にはなっていると思われます。

有機EL素子材料

LG Displayのパネルに使用されている発光材料(有機材)は、低分子系が使用され、青の蛍光材料と赤と緑のリン光材料の重ね合わせ(タンデム型)です。

Samsung Displayのパネルに使用されている発光材料は、低分子系が使用され、RGB3色の発光材料が使用されています。

光取り出し方法

LG Displayのパネルは、TFT基板側から取り出すボトムエミッションです。Samsung Displayもこのボトムエミッションです。ボトムエミッションはトップエミッションに比べて開口率が落ちるため光利用率が落ちますが、製造が容易です。

開発遅延/パネル製造

報道されている限りですが、LG DisplayはTFT関連、Samsung Displayは有機材の問題がある模様です。

これら以外にも熱の問題もあり、おそらく両社ともかなり苦戦していると思われます。有機ELパネルは電流駆動のため、電流が増えると熱が発生してこれが表示品質(発光動作)に影響します。

LG Displayは、第8世代の基板を用いて製造を行なっており、55型のパネルは1枚のマザーガラスから6枚製造することが可能です。Samsung Displayは非公開のため不明ですが、おそらく第8世代で行なわれていると思われます。

現状の歩留まりは不明ですが、かなり低いと思われます。


サムスン電子は、かなり前から有機ELテレビを発売すると言ってきましたが、ついにLG電子に先を越された格好になりました。今後、サムスン電子がどういう対応を取り、Samsung Displayの有機ELパネルの性能や量産が可能なのか。そして、今年のCESでサムスン電子は有機ELテレビについて言及するのか注目です。

そして、日本メーカーの動向も注目ですよ。PanssonicとSonyの共同開発について、今年色々と情報が出てくるでしょう。予定通りに進めばですが。

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